ペットの殿さんがうんこをする。母がトイレを綺麗に掃除したばかりなのにうんこをする。
タイトルの通りなのだが、ペットの殿ちゃんが、うんこをする。母がトイレ掃除をしたばかりなのに、うんこをする。見計らったように、迅速にうんこをする。それがそこにあったように、平然とうんこをする。そうでなければいけないポリシーでもあるのか、うんこをする。
しかもそれが尋常じゃないくらいに、シンプルにくせぇのだ。
とてつもなくくせぇのだ。
何食ってんの?ホントにドックフード?って、ぐらいくせぇのだ。
今すぐにでもその汚物を取り除かなければ、このまま死んでしまうんじゃねーかってぐらいくせぇのだ。
だから、母が動く。彼女も迅速に動く。その悪臭に、相好を歪めながら、トイレットペーパー片手に汚物を取り除く。しかし、
帰ってくると、そこにうんこが存在する。
不思議な現象だ。
世界ふしぎ発見だ。
当然母は困惑する。「あれ?あたし今掃除したよね?」と首を傾げて、胡乱げにうんこを見つめる。迷宮入りしそうな事件を目の前に困惑しながら、うんこを見つめる。
「え、もしかしてあたし本当に掃除してなかった?」
母は自分を疑う。
当然だ。母も物忘れが激しい年齢になってきた。自分を疑うのも無理はないだろう。だが、
私は見ていた。母がきちんと犬のトイレから汚物を処理するのを、きちんとこの目で目撃していた。
だから、コレだけは言える。
母は犯人ではない。
間違いないことだ。
真犯人は別にいる。
母がトイレ掃除をして、帰ってくるまでの数秒間に、再びうんこを生成させた真犯人がいる。
私と母は、顎に手を添えて、顰蹙した。まだ見ぬ真犯人を追い詰める為に、黙考した。そこへ、
プリティーなおしりをフリフリさせた奴は、現れた。
今回の重要参考人とも言われる人物。
いや、ここでは重要参考犬と言った方がいいだろうか?
ミニチュアダックスの土屋殿さん。二歳。天邪鬼。マザコン四男だ。
彼は、何食わぬ顔でトイレへと向かう。我々がそれを見ていることも気付かずに、そのお尻を下げる。
ブリブリブリブリブリブリブリ
臭い。
酷い激臭だ。
理科の実験ですら、こんな激臭は嗅いだことがないぐらいに、衝撃的な香りだ。
彼は、うんこを残すと我々を横切って自分のベッドへ帰還して行った。
部屋には謎と、うんこと、激臭が残った。
私はうんこを見つめた。
私はうんこを見つめ続けた。
そして、
ふと、気付いてしまった。
うんこの形状が似ている、、、
恐怖で皮膚が粟立つのが分かった。
黒くて、太くて、逞しい。
勿論、ちん〇の事ではない。驚くことに、これは、うんこの形状の話だ。
殿さんのうんこの形状が、真犯人に繋がる残された証拠に、似ているのだ。
それも、瓜二つだ。十人に聞けば十人が、十中八九似ていると言うぐらいには、似ているのだ。
私と母は向き合うと、無言で頷いた。それから、
殿さんを見遣った。
後ろ足で耳元を掻く四男。そこに、罪の意識はないように見えた――
※
形状が似ているうんこだけでは、犯人だと断定出来るだけの証拠にはならなかった。DNA検査でも出来れば結果も変わったのだろうが、我々にはそれを扱う技量も、頼む金銭もない。
謎は、迷宮入りだ。
犯人はそこにいる。
分かっているのに、追い詰められない。
我々は見ている。
我々は君を見ているぞ。